■ 霧につつまれたハリネズミ ■

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「霧につつまれたハリネズミ」というアニメーションをご存知だろうか。“映像詩人”として世界的に知られるロシアのアニメーション作家,ユーリ・ノルシュテイン NORSHTEYN, Yury (NORSHTEIN, Yuri) 1941- による,1975年の作品だ。
お茶に入れるエゾイチゴのジャムの包みを手に,友人の小グマに会いに行く途中で霧に包まれ,道に迷ってしまったハリネズミの小冒険。ただそれだけなのだが,実に味わい深い作品なのだ。
舞台は,霧に包まれた夜の草原。まず雰囲気がよい。灰色とダークグリーンの支配する静かな世界(あまり意味のない比較だが,ディック・ブルーナの鮮やかな原色世界の対極に位置する世界だ)。
星空。井戸。後ろをついてくるおかしなミミズク。霧の中に浮かび上がる白馬の姿。白い蛾の群れ。コウモリ。蛍。大きな樫の木……
ヨージクの川流れ
ハリネズミのキャラクターもよい。目をまん丸に見開き,口もぽかんと開いている。こわごわと霧の中に踏み込み,道に迷ってパニックに陥っていたくせに,川に落ちてしまうと,ぼーっと流されるままになってしまう。やっと行き着いた小グマ君の家で,心配させられた反動で饒舌になっている小グマ君の言葉をぼんやり聞き流しながら,「やっぱり小グマ君と一緒にいるのはいいなあ」とか考えている。実にマイペースなのだ。

★ Too Trivial! ★
この小さなハリネズミは,関係者には,ロシア語そのままに「ヨージク」と呼ばれているようだ。作品中でも,小グマ君が霧の向こうから呼びかけてくる「ヨージーク!」という呼び声が何度か聞かれるので,自然にそうなったのだろうが,ノルシュテイン監督自身,この作品の話になると,この小グマの声色を真似てみせることがたびたびあるようだ。

しかし,この作品を観る人は,ハリネズミの一挙一動を,距離をおいて観察するのでは決してない。ハリネズミと一緒に,霧の世界の魔法に感嘆しながら,一歩一歩,こわごわと歩き回ることになるのだ。
実際,この作品を観るときに感じられるのは,子どものころからずっと忘れていた,さまざまな気持ちたちではないだろうか。絵本の腰巻きには,「きりのなかで はりねずみが体験したのは,あこがれ,おどろき,おそれ,そして,よろこび…,そう,人生そのものなんだ。」という作者の言葉がそえられているが,そのことは絵本よりも,アニメーションを見るとき,ずっと実感を伴って感じられる(さらに詳しい作者のコメントは,福音館書店の「作者のメッセージ」のページを参照)。
小さなハリネズミの霧の中の彷徨は,おそらく誰にとっても,心の底の忘れられかけた領域を呼び覚ますものとして感じられるはずである。

★ Too Trivial! ★
霧の中
【このセピア画像は,
こちらのサイトから借用】
徳間書店アニメージュ文庫の『話の話』(アニメージュ編集部 編,1984.04.)中,作品解説の冒頭で,アニメーション作家の高畑勲は,彼がはじめて出会ったノルシュテイン作品である「霧につつまれたハリネズミ」の賞賛に数行を費やしている。
内容としては,私がここで言わんとしているのとほぼ同じようなことを,およそ37倍くらい闊達自在な名文で書きつづっているだけなので,ここに引用はしない。悔しいから。
ちなみに,宮崎駿とともにスタジオジブリを背負って立つ人気アニメーターである高畑は,最も古くからのノルシュテイン作品のファンの1人であり,ノルシュテインとの交流はよく知られている。
一方で,ノルシュテインは親日家としても有名。彼の日本贔屓ぶりは,こちらのインタビューからもわかる。このページでは同時に,「霧ハリ」の成立事情についても知ることができる。

ついでながら,ノルシュテイン自身が言うように,この作品を人生におけるさまざまな体験のスケッチとしてとらえるならば,ドクター・スースの絵本『きみのゆくみち』と比較してみるのも面白いかもしれない。

この作品は,98年から2001年にかけてのほぼ毎夏(99年については未確認),他のノルシュテイン作品と共に,東京都杉並区のアニメーション専門上映館である阿佐ヶ谷ラピュタで紹介され,ファンを増やしている。

★ Too Trivial! ★
ノルシュテイン作品は,かつて出ていたLDが廃盤になって以来,長らく劇場以外では見られない状態だったが,2002年夏,待望の作品集DVDが出た。『霧ハリ』もこの中に収録されている。
また,ネット上では,「コミックボックス」誌1996年12月号で,フォトストーリーを見ることができる。ただし,画像はきわめて不鮮明。
なお,同誌の編集部はラピュタと同じ番地にあり,サイトのトップページにはラピュタの公式サイトへのリンクも貼られていることから,版元の ふゅーじょんぷろだくと とラピュタの間には,何か深いつながりがあると思われる。

ハリとチェブ
ヨージクとチェブ
とカエル君
特に2000年からは,ノルシュテインが名目上の実行委員長を務めるラピュタ・アニメーションフェスティバルがスタートし,毎回,ノルシュテインのほぼ全作品(CMや製作途中のものを含む)が上映されている。2000年の第1回,このフェスティバルのポスターにはヨージクが起用されており,七夕祭りで賑わう阿佐ヶ谷の街中の至る所に,ヨージクのポスターが見られることになった。また,2002年秋のフェスティバルでも,ヨージクがマスコットとなり,ポスターやマスコットとして,中杉通りの商店などに飾られた。
ノルシュテインの代表作といえば,以前なら「話の話」と相場が決まっていたが,今や,日本での知名度は,『霧ハリ』の方が上かもしれない。

同フェスティバルは,2000年,2001年とも8月に開かれたが,2002年には11月開催となり,会場も,阿佐ヶ谷のラピュタと,恵比寿ガーデンプレイスにある東京写真美術館での,同時開催となった。ポスターは何種類も出ているが,その多くはロシアのアニメーション・キャラクター,チェブラーシカとヨージクの絵が組み合わされたものだった。

★ Too Trivial! ★
「チェブラーシカ」は,恵比寿の東京写真美術館のみでの上映で,ラピュタではやっていない。
前年の夏〜秋,渋谷ユーロスペースで上映されて一躍人気者となったチェブラーシカが,恵比寿会場で上映されたのは,「チェブは知っているけれど,ノルシュテインって何?」という中間層の掘り起こしを図ったものだろうか。

チェブ
チェブと本来のお相手
とカエル君
ラピュタのウェブサイトやリーフレットの表紙,無料のプロモーション絵はがきでも,ヨージクとチェブの絵が使われているが,ウェブサイトにあったイラスト(右上)以外では,(抱き合わせにしたことをノルシュテインに詫びるかのように)ヨージクがチェブの2倍近い大きさでデザインされているのが,何とも微笑ましい。
ラピュタのあるJR阿佐ヶ谷駅北口側の商店街では,落ち葉を張り詰めた大きなヨージクの看板などが飾られた(その写真は,下記のグッズ類の一部とともに,ひろみさんのサイト「HOWDY!!」「旅行記」のページで見ることができる)。

2002年フェスで販売された関連グッズとしては,以下のものがあった。
Gヨージク
Gヨージク>
チェブのポーズ?
なお,上で「Gヨージク」と書いたのは,今回のグッズ用に描き下ろされたらしい共通デザインのヨージク(鉛筆イラスト風のモノトーン:右)だが,このキャラクター本来のチャームポイントであるまんまる目玉の輪郭がはっきりと描かれていないせいで,別のキャラクターのようにさえ見えてしまうのは,少々残念だ。

ラピュタのロビーには,ノルシュテインの自筆と思われる,東洋風の笠をかぶったヨージクの絵皿が飾られている(これも「HOWDY!!」「旅行記」のページで写真が見られる)。2002年のフェスティバル期間中には,2000年と同様,ノルシュテイン作品の作画監督でもある奥さんの手になる各シーンの絵が,2万円代で売られていた。
さらに,彼女が『霧ハリ』絵本用に作成した手書きの下絵(「原画」として販売されていたが,色鉛筆によるラフで,水彩による彩色はなし)が,クリアフォルダに収められ,1枚20,000円から40,000円の値段で売られていたが,最終日には(満席状態となった),その多くが売約済みとなっていた。

非売品としては,フェスティバルのリーフレット,プロモーション用の無料絵はがき,美術館などで掲示されていた数種類のポスターがある。
期間中,中杉通りの多くの店では,店先に,フェスティバルのポスターを張り出したりチラシを置いたり,黄色い小旗を出したり,あるいは,茶色い紙をクシャクシャにまるめたものにヨージクの顔をつけて棒をつけたもの(オブジェA:ラピュタのロビーにもあり)や,同じく紙のかたまりにトゲを表す切り紙がたくさんついたものにヨージクの顔をつけたもの(オブジェB)を置いていた。

★ Too Trivial! ★
いぬかわはたまたま路上でこの絵はがきを拾ったおかげで,この11月のフェスティバル開催を知ることができた。
他のイベント関係の絵はがきとともに,美術館のロビーに置かれているものだが,いぬかわが行ったときは,このアニメフェス絵はがきのボックスのみ空になっており,人気のほどがうかがわれた。結局,路上で拾った,かなり汚れたものしか入手できなかったわけだが,後日,ひろみさんより1枚いただいた。

なお,2,000円以上のグッズを購入すれば,布製のエコ・バッグ(マスコット・ハリ)とポスター(ハリ+チェブのアップのもの)が無料でついてきた(ポスターは途中より品切れで中止)。

また,2000年以来このフェスティバルで販売されているパンフレット『ユーリ・ノルシュテインの仕事』(2002年にも会場で販売されていたが,広告等に至るまで2000年のまま)では,「霧ハリ」のフォトストーリーが見られる。なお,このパンフレットの表紙を飾っているのは,ノルシュテインと,彼の代表作である「話の話」の主人公のオオカミ,それにハリネズミの3人が,1つのテーブルでお茶を飲んでいるクレイ作品(石田卓也 作)だが,これはもともと,前記の「コミックボックス」誌1996年12月号表紙で使われていたものだ。
さらに,これまた「コミックボックス」誌からの使い回しだが,「エッセイ 私の好きなノルシュテインを語る」では,絵本作家スズキコージ(『大人のためのグリム童話の挿し絵』でもハリを描いている?)による,オオカミともハリネズミともつかない珍獣の絵や,片山健(絵本『むぎばたけ』の作画者!)による,これまたノルシュテインのキャラクターから遠く離れたハリネズミのイラストを楽しむこともできる。

情報を提供してくださった「ゆ」さん,ありがとうございました。

★ Too Trivial! ★
ラピュタ・アニメフェスは,大人向けのアニメーションのフェスティバルである。スタート時は,既存の大会と差別化し,あえて国内の作品を対象としたフェスティバルとしていたはずだが,2003年には,実行委員長であるノルシュテインの作品以外に,ロシアのさまざまな短篇アニメーションを上映している。毎回「ノルシュテイン大賞」を設けており,ノルシュテイン本人を招いての開会あいさつ,対談やワークショップ等も行われている。
ノルシュテインは,新イベントの目玉として担ぎ出された斯界の大御所というところだが,うがった見方をすれば,ゴーゴリの作品をアニメーション化した「外套」の制作にあたって,驚異的とさえいえるディテールへのこだわりから,果てしない時日と莫大な資金を必要としているノルシュテインにとっても,安定した収入源となるこの恒例イベントは,渡りに舟であったかもしれない。
2002年秋のフェスティバル期間中,いぬかわはたまたま,荷物を取りにラピュタ事務室に立ち寄ったノルシュテインその人を見かけたが,関係者と思しき喫茶室の客たちやスタッフが,特に驚いたふうもなく自然に振る舞っていたのが印象的だった。

【関連項目】
ハリネズミくんと森のともだち(童話)
きりのなかの はりねずみ(絵本)
チェブとゲーナとハリネズミ(チェブラーシカ)
2000.03.20. 最終推敲:2003.03.27.
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■ ストーリー・テラー ■

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アメリカの英語教育番組「セサミ・ストリート」に登場するビッグ・バードやカーミット・ザ・フロッグ、クッキー・モンスターなどのキャラクターを見たことがいないという人はいないだろう。テレビ向けに特別に開発されたこれらのぬいぐるみ「マペット」を創造したのがジム・ヘンソンである。
ジム・ヘンソンのぬいぐるみキャラクターを売りにした「ジム・ヘンソンのストーリー・テラー」は、米国のNBCテレビで放映されたシリーズだが、第1話(ビデオでの)は「ハリネズミのハンス Hans My Herdgehog」だ。「〜ドイツ民話より」となっているが、直接の取材元は同タイトルのグリム・メルヒェンだと考えてよいだろう。
ヘンソン版はアメリカ人の嗜好に合わせて?「美女と野獣」風にストーリーが変えられいる。ハスキーな声で話す凶暴な野獣顔の「ハリネズミのハンス」には、確かに一見の価値がある。この作品は、CBSソニーからビデオが発売されているほか、絵本にもなっている。
ところで、ニック・ウィリング監督による「アリス・イン・ワンダーランド」(言うまでもなく、ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』を映像化した作品)でクローケーの球にされるハリネズミたちも、ジム・ヘンソンズ・クリーチャー・ショップのスタッフの手になるものである。このハリネズミたちは幾分擬人化されており、フラミンゴのスティックで叩かれる前に、憂鬱そうに溜息をついたり、落ち着かなげに足をトントンさせたりする。
2000.03.20. 最終推敲:2002.03.24.
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■ ミート・ザ・フィーブルズ ■

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「ミート・ザ・フィーブルズ −怒りのヒポポタマス− Meet the Feebles」(1989年)は,90年の東京ファンタスティック映画祭で上映された,コミカル・スプラッタ映画である。
このフィルムでは,架空のショー・グループ「フィーブルズ」の色と欲にまみれた舞台裏が描かれる。全キャラクターを,セサミ・ストリート風の動物パペットと着ぐるみが演じる。ユーモラスなキャラクターたちの姿とは裏腹に,内容は相当にエグい。 主人公の1人は,フィーブルズのとうの立った歌姫,“ピンクのカバ”ハイディだ(吹き替え版の声優は「ピンクの電話」のあの人)。色仲だったプロデューサーにお払い箱にされてブチキレた彼女が,テレビ生放映中にマシンガンを乱射しながら舞台に乱入,メンバーのほとんど全員を惨殺してしまう大殺戮シーンは,人形スプラッタ映画史上に末永く刻まれるべき名場面というべきであろう。

Robert
ロバート
さて,テレビ放映を控えて練習に熱が入るフィーブルズの楽屋に,おずおずとやってきた新米コーラス・ボーイがいる。ハリネズミのロバート君は,見るからにサエないイモ兄ちゃんだが,実は彼こそが,この物語のもう一方の主人公なのだ(DVD版のカバージャケット写真からはしっかり洩れているが)。
ロバートは,同じく新米コーラス・ガールのルシール(スピッツ?)の姿を一目見た瞬間,恋に落ちる。仲間たちに茶化されたたルシールは,照れもあってか「何よ、田舎者のハリネズミじゃない」とニベもないが,ロバートがフラメンコ・ギターを爪弾きながら部屋の外から情熱的に歌い上げた愛の歌にほだされ,めでたく相思相愛の仲となる。俗物だらけのフィーブルズにあって,このカップルの素朴さは光る。
クライマックスの大殺戮シーンでロバートが見せる勇姿は,ハリハリ映画ファンたちに末永く語り継がれてゆくであろう。

★ Too Trivial! ★
吹き替え版ビデオでのルシールの台詞は,「何よ、田舎者のヤマアラシじゃない」。だが,英語ではちゃんと hedgehog と言っているのだ。

フィーブルズの演出家,キツネのセバスチャンは,自分の演出に従わないロバートを目の敵にする。フィーブルズ公演のテレビ放映本番で,ロバートはセバスチャンの指示によって,ナイフ投げの助手(=標的)を務めることになるが,ナイフを投げるカエルはベトナム帰りのヤク中で,ロバートの前任者にナイフを命中させているのだ。さいわいナイフ投げは,ロバートを犠牲にするより先に,ナイフを自身の脳天に受けて倒れる(“ハリネズミ対キツネ”の構図?)。
セバスチャン自身は,プロデューサーの隙を突いて舞台上で sodomy(男色,獣姦)讃歌を嬉々として歌い上げ,客席に死のような沈黙をもたらす。その後に来るのがハイディによる大量殺戮だが,ロバートやルシールらフィーブルズの数少ない善良派たちとともに,このおかまギツネもしっかり生き延びているから,製作スタッフには案外気に入られていたのかもしれない。

監督はニュージーランド出身のピーター・ジャクスン Peter Jackson。パペット・デザインはキャメロン・チトック Cameron Chittock。
24分の短篇として企画されたこの映画が,90分超の長篇となったのは,資金提供を申し出た日本の投資家の要求に応じた結果であるという。しかし,ジャクスン監督にとって2作目となったこの作品の撮影は,資金難とタイトなスケジュールのために,困難を極めることになった(この経緯はDVDの Production Notes に詳しい。これを見ると諸悪の根元はニュージーランド映画委員会であったようだが,投資家の資金提供は結局得られたのだろうか?)。
ビデオはタカラから吹き替え版が発売されていたが,現在は他社からDVDが出ている(発売 imagica,販売 パイオニアLDC)。DVDの音声は英語,字幕は日本語のみ。

それにしても,この絵に描いたようなキワモノ映画のクリエイターであるジャクスン監督(ついでに言えば,『フィーブルズ』に先立つ第1作のタイトルは『バッド・テイスト』である)が,6年後の2001年,もうこれ以上はないというようなド王道ファンタジー「指輪物語」の映画化作品 "Lord of the Ring" で未曾有の大ヒットを飛ばすとは,いったい誰が想像し得ただろうか。
テリー・ギリアムもそうだったが,ファンタジーの才能というものは,その持ち主を,まずは醜くも滑稽なゲンジツ社会を笑いのめす“黒い笑い”の世界に向けて走らせるものなのかもしれない。
そういえばジャクスン監督自身は,『フィーブルズ』のことを「『ロジャーラビット』と『ブラジル』が出会ったような作品」と表現している。

★ Too Trivial! ★
ニュージーランドに,カバはいない。が,ハリネズミはいる。
ヨーロッパから移入され,帰化したものだ。

この映画はビデオとDVDが発売されているが,ウェブ上ではこちらのウェブページでも紹介されている。
このウェブページについては,カーター卿よりご教示いただいた。ありがとうございます。
2000.03.20. 最終推敲:2004.01.04.
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■ 北朝鮮のアニメーション ■

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『リスとハリネズミ Darami wa Goseumdochi』は,朝鮮民主主義人民共和国(以下北朝鮮)で作られた,代表的なアニメーション・シリーズの1つである。演芸全般に力を入れていることで知られる北朝鮮は,知る人ぞ知るアニメーション大国でもあるらしい。
この作品は本来,1983年に制作された,各20〜30分の4部作で,その内容は,イタチ軍に故郷のコットンサン(花の丘)村を侵略されたリスが,ハリネズミの軍隊に参加し,知恵と勇気を絞り絞ってイタチ軍に立ち向かうというものであった。
監督のキム・ジュノク Gim Jun-ok は,「キム・イルソン賞」と「人民芸術家」の称号を授与された,押しも押されぬ児童映画作家であり,40年のキャリアの中で手がけてきた作品は,実に400編に上る。
しかしなぜか,1997年になって,朝鮮4・26児童映画撮影所による『リスハリ』シリーズの制作予定が伝えられると(「朝鮮新報」日本語版),99年には早くも第13〜15部(!)の制作が(「文芸年鑑2000」@韓国,「韓国日報」),さらに2001年には第19,20部の制作が報じられている(「民族通信」@LA,朝鮮通信社@東京)。
もしかすると,この児童向けプロパガンダ・フィルムは,「寅さん」のように,もはや誰にも止めることができないエンドレス・シリーズと化してしまっているのかもしれない。

★ Too Trivial! ★
このアニメのタイトル中,「リス」を表す Darami は,長崎県の「たらみ食品」とは……全く無関係。たらみ食品の本社所在地,多良見の地名は,多良山がよく望まれるということで,比較的最近に,町村合併の際に作られたものである。
一方,ニワトリ氏によれば,朝鮮語では(南北とも)リスは普通 daram-jwi タラムジ と言い(jwi チ はネズミの意),ここで Darami と言っているのは,「リスちゃん」というほどのニュアンスではないかとのこと。

さて,実際の映像画面だが,ウェブ上では少なくとも2種類のものを見ることができる。
ハリネズミ君
自衛隊員の募集ポスターのような,すがすがしくも凛々しいリスとハリネズミの出で立ちを御覧になりたい方は,こちらを覗いてみるとよい。北朝鮮系の企業であるタングンが開いている朝鮮映画紹介サイト内のページである。ハリネズミ少年のイガイガメットが,ちょっとかわいい。
このサイト,2002年3月現在,更新は滞っており,品薄の旨も記されているので心許ないが,一応こちらでビデオの購入も受け付けているようだ。「リスとハリネズミ」はカラー20分で3500円,日本語の字幕スーパー付き。
また,主人公たちが,敵のイタチどもを不意打ちしてくびり殺したり,地下トンネルで出会いがしらに絞め殺したり,樹の上から木串を投げて首を串刺しにしたり,落とし穴に落として田楽刺しにしたり……といった,甚だ教育的かつ実用的なゲリラ戦シーンを見てみたい向きは,このページを御覧になるとよい。こちらは,韓国アニメーション事情に詳しい方の個人サイト「かに温泉」内のページである(こちらの運営者からは,本項の記述の誤りについて,ご指摘のメールをいただいた。感謝したい)。
上記「朝鮮新報」の記事によれば,朝鮮のアニメーションは,

各国のテレビでも放映されており,暴力や殺人などのシーンがなく健康的で,子供の教育に良いと評判。動物を中心とするキャラクターの可愛らしさと,ディズニー映画を彷彿とさせる動きの滑らかさ,表現力の豊かさも人気の要因だ。

とのことだが,きっと『リスとハリネズミ』は共和国民専用フィルムということで,「暴力や殺人などのシーンがなく健康的」という文言の対象からは除外されているのだろう。同ページでは,日本でも購入可能な朝鮮アニメビデオとして,キム・ジュノク監督のもう1つの代表作である『かしこいタヌキ』などのタイトルが挙げられているが,確かにその中に『リスとハリネズミ』は含まれない(ただし,上に記したように,タングンのサイトでは普通に販売されているのだが)。
なお,『リスとハリネズミ』は,北朝鮮では切手にもなっているようだ(こちらを参照)。情報をくださったお〜ふぁさん,ありがとうございます。

このほか,北朝鮮には,『トラに勝ったハリネズミ Horang-i reul igin goseumdochi』という,これまた国内ではよく知られている(らしい)アニメーション作品がある。
丘の動物たちが楽しく力比べをしているところへ,乱暴者のトラが現れ,力自慢をして大会場をめちゃくちゃにしてしまう。動物たちはそのまま退散しようとするが,ひとりハリネズミだけが,誰が力持ちかはやってみなければわからないと言い,トラに挑戦する。ハリネズミのトゲのためにひどい目に遭ったトラは逃げ出し,これを見守っていた動物たちは,身体は小さくても知恵をもって戦えば大勝することができるという教訓を得る。
演出のソン・ジョングォン Son Jong-gweon は,北朝鮮アニメーションの父とも呼ばれる大家で,北朝鮮で人気を博したアニメはほとんどみな彼の手を経ているという(その中には上記『かしこいタヌキ』も含まれる)。ソン氏は91年に「功勲芸術家」称号を受けている。
朝米核協商以降,この映画は,ハリネズミが北朝鮮を,トラが米国を喩えるものと宣伝されているというが,この作品はもともと,キム・ジョンイル総書記が少年時代に語り聞かせたという童話をアニメ化したものとされる。
この話は「新潟日報」の「日報抄」1999.04.01版に引かれている『人民の指導者金正日書記』(雄山閣)からのエピソードに詳しいので,興味をもたれた方はご一覧願いたい。

★ Too Trivial! ★
なお,この「日報抄」記事で紹介されている,「そもそも、ハリネズミを専守防衛の代表と見るのが間違い」「ハリネズミは実は猛烈に攻撃的な肉食獣」との元駐英大使の言葉は,どう考えても間違い。ハリネズミは昆虫などを主食とする雑食性であり,猛烈に平和的な小動物である。
この知ったかぶり発言を真に受けた「日報抄」記者の,「金総書記がハリネズミの生態を詳しく知っていたうえで例えに使ったのかどうか。そこが知りたい」という決めゼリフはなかなか楽しい駄目押しだが,ハリネズミの生態を詳しく知るわけもない元駐在英大使とやらのコメントを日報抄子は何故に鵜呑みにしたのか,そこが知りたい。いや,正直に言えば,べつに知りたくはないが。

このアニメと関連してか,韓国の統一教育センターのサイトにある初等学校(小学校)中学年けの授業用資料中には、次のような北朝鮮のなぞなぞが紹介されているという。

虎もぶるぶる震える栗のいがのいとこ分は?−−− ハリネズミ。(ニワトリ訳)

この喩えを好んで使ったのがキム・ジョンイル氏であったとしても,他項でふれたように,強いトラがちっぽけなハリネズミを苦手とするというイメージは古くからあるものであって,総書記または彼の広報スタッフの,完全なオリジナルというわけではない。
(この項の情報の大部分は,ニワトリ氏の提供による)
2000.03.20. 最終推敲:2002.08.18.
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■ 私立探偵ハリー ■

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ハリー
ピンクのカバやブタなどの3Dキャラクターで知られるCGクリエーター,ダバカン(駄場寛)氏の初CD-ROM『ダバカンワールド CGパラダイス・スタジオ −駄場寛3DCGアニメーション−』(日経出版販売,税別4,800円)が出た。
このタイトルには,ダバカン氏の全発表作品約170点に加え,ダバカン氏がCGソフトSTRATAで製作した全編描き下ろしの三次元CGムービーが収録されている。
この短篇アニメーションの主人公は,ハリネズミのハリー。探偵である彼は,ファイル検索指令に基づき,ダバカン氏作品のルーツである「オリジン=白いカバ」(公式サイトでは「自いカバ」となっているが,おそらく間違いだろう)を探して,バーチャルタウン DAVA's City に降り立つ。そこで待ち受けていたのは凶暴なコンピュータウイルスだった。ウィルスに破壊される前に,「オリジン」を見つけ出すことができるか……
ハリーはダバカン氏の最新キャラクターであるという。メーカーによる紹介ページは,こちら

ハリネズミというのは,ハリがたくさんあって面倒なので,造形の分野では,とかく敬遠されがちな動物である。ネーミングの安直さは安直さとして,ダバカン氏の挑戦に敬意を表したい。
「ちかみち」の道さん,情報提供ありがとうございました)
2000.03.24. 最終推敲:2002.03.29.
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■ その他の映像作品 ■

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2000.03.20. 最終推敲:2002.12.21.
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■ 舞台作品 ■

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2003.09.06. 最終推敲:2003.09.06.
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■ トゲトゲ・ノーマンと    
    ハリネズミ=タヌキ説 ■

− 巨大ハリネズミと“天然ボケ” −

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英国の公共放送であるBBCが放映していた伝説的なコメディ番組、「モンティ・パイソンズ・フライング・サーカス」(Monty Python's Flying Circus, 1969-74, 邦題「空飛ぶモンティ・パイソン」)にも、ハリネズミが登場する。
第2シリーズ第1話の最終スケッチ(=コント)「ギャング兄弟」に登場する、トゲトゲ・ノーマン spiny Norman だ。

※ 第2シリーズ第1話の本放送は、1970.09.15.。以前出ていた邦版ビデオ(ポニーキャニオン)ではVol.1に収録されていたが、新版での収録が何巻かは調査中。発売ポリドール,販売ユニバーサルミュージックのDVDシリーズではVol.3に収録されている。
有名な「バカ歩き silly walk 省」のスケッチもこの回で、ギャング兄弟を追う警官たちも、警察署の前でバカ歩き男とすれ違う。

このスケッチはドキュメンタリー番組を模したギャグで、400年の懲役を宣告されたというギャング兄弟、ダグとディンズデールについて、彼らを知る人たちにインタビューを試みるというもの。なお,BBCは、上質なドキュメンタリーの制作でも世界的に知られている。

“番組”中、ディンズレールの元ガールフレンド、グロリア(スタジオで司会進行役を務めているはずのジョン・クリーズが演じている)は、次のように証言する。

「ディンズレールは、まともな人間なのよ。いつも、ノーマンって名前のドでかいハリネズミに見られている気がするって言ってた以外は……。ノーマンは、普段は12フィートなんだけど、ディンズレールに元気がないと800フィートに巨大化しちゃうのよね」
(須田泰成『モンティ・パイソン大全』洋泉社,1999.02.,p.135)

ノーマンが近くにいる(と思っている)と、ディンズレールはおとなしいのだが、ノーマンが巨大化すると、彼も狂暴になるというのである(グロリアは、彼の鼻と歯がどうとか言っているのだが、この語りは残念ながら、聞き取ることができなかった)。
グロリアが "...by A giant hedgehog." と言ったところで、会場からは笑い声が湧き起こり、「800フィート」云々で、再び笑い声があがる。ディンズレール氏がそんな妄想にとりつかれているとしたら、もちろん彼は“どこをとっても完璧にまともな人間 (a perfectly normal person in everywhere)”どころではない。

兄弟はついにロンドンを支配下に収めるが、妄想が昂じたディンズレールは、トゲトゲ・ノーマンがルートン空港の飛行機格納庫 airplane hanger で眠っていると思いこみ、1966年2月22日、空港に攻撃をかける。キノコ雲の映像。先行のインタビューによれば、ディンズレールはなぜか、核ミサイルを持っていたのだ。
この事件で警察がやっと重い腰を上げ、ギャング兄弟は逮捕されてしまう。

ギャング兄弟のスケッチには、「兄弟が脱獄したぞー!」という叫びとともに人々が逃げまどう映像でオチがつく。その後、番組のエンディング・ロールが流れるが、バックに映し出されたロンドンの街頭では、巨大ハリネズミの幻影が、ビルの上やテムズ川の岸辺から顔を出しては、ギャング兄弟の片割れを執拗に探し続けるのだ。しわがれ声で「ディンズレール、ディンズレール」と呼びかけながら……

ノーマンはすこぶる目つきが悪く、オールバックになでつけられた額の針は、ハリネズミにしてはずいぶん長い。
モンティ・パイソンのアニメーションはすべて、パイソンズの一員であったテリー・ギリアムの手によるものである。アメリカ出身のギリアムにとって、ヨーロッパの野生ハリネズミは、きっと物珍しいものだったに違いない。

※ 現在は映画監督として活躍しているギリアムは、スケッチへの出演こそ少なかったが、彼の描く妙ちきりんなリンキング(=つなぎ)・アニメーションを抜きにしてモンティ・パイソンは語れない。
ギリアムはパイソンズ中で唯一のアメリカ人だが、そのアニメ作品の狂気をはらんだシュールさには、どことなく、前世紀英国のナンセンス詩人、エドワード・リアの描いた絵を思わせるものがある。

※ 旧版ビデオ vol.1 のジャケット裏表紙のデザインは、書籍広告仕立てになっており、3×3−1で8冊の本の広告が並んでいた。ノーマンの顔は中央。ちなみに、本のタイトルは、"Spiny Norman's Book of Body Repair"。ロンドンにも鍼灸師がいるのだろうか。国内DVD盤のジャケには,残念ながら,ハリネズミの姿はない。
『大全』p.51 でも、ノーマンの顔を見ることができる。

ついでに、『大全』p.135 から、英国でのハリネズミの位置づけについての注釈を引いておこう。

ハリネズミは、英語で "hedgehog"(ヘッジホッグ)と呼ばれ、コメディには欠かせないキャラクター。現在でも、いろいろなTVコメディーその他に登場してギャグにされている。イギリス人に言わせると、なんとなく出てくるだけで理屈じゃなくて笑えてしまうのだという。ちなみに "hedge" とは、「生け垣」のこと。庭いじりをしていると、よく目撃するのだという。日本でいえば、落語などによく登場するタヌキのようなキャラクターかも?

“コメディには欠かせないキャラクター”だったとは驚きだが、ハリネズミ=タヌキ説は、なかなか面白い。特に、ヨーロッパに分布するナミハリネズミはタヌキ顔だし(ポター描くところのティギーおばさんの顔を見て、一瞬「タヌキかな」と思わない日本人がいるだろうか?)、どこかモッサリしていてノソノソと歩く姿にも、重なる部分がある。ウサギやキツネとやり合ったりするのも、これで合点がいく。
ただし、タヌキが登場する落語というと、そう多くはないような気がするし、いわんや、現在のコメディとなると、タヌキはほとんど登場しないと思うのだが……

※ ちなみに、タヌキは欧米には棲息しない。日本固有の動物ではなく、アジア東部に広く分布しているが、西洋人にとっては珍獣である。英語では単独の固有名がなく、アライグマイヌ (raccoon dog, raccoon-like dog) と呼ばれる(タヌキはイヌ科に属し、dog という言葉は、広義にはオオカミ、コヨーテ、キツネなど、イヌ科に属するすべての動物を指す)。
ただし,ヨーロッパの野生動物についての本に,「タヌキ」が登場することがまったくないわけではない。ヨーロッパでもごく一般的な動物である“アナグマ”を,勝手にタヌキと訳している罪作りな翻訳者がいるのだ(アナグマを「たぬき」,タヌキを「ムジナ」と呼ぶ地方もあるにはあるが,あくまで方言である)。

私事で恐縮だが、かつてアルバイト先の中華料理店で、剽軽な香港人の勤労学生、馮(フォン)さんから、
 「センセイ、“タヌキ”って英語で何て言うの?」
と訊かれたことがあった。
彼は、仕事仲間である中国系マレーシア人のオバサン、陳さんに、何とかして「あんた、タヌキにそっくりだね」と伝えたかったのだ(同じ中系人同士でも、言葉の違いは意外に大きいらしく、広東語・北京語の会話で通じないところは、漢字の筆談や英語で補っていた)。
表参道と青山通りの交差点にある、1階に瀬戸物屋の入っているビルの前に、信楽焼のタヌキが、ひっそりとたたずんでいる。後で気がついたのだが、いつも口をヘの字にしてそっくり返っていた気丈な陳さんは、確かに不思議なくらい、その焼き物ダヌキにそっくりだったのだ。

1999.07.09. 最終推敲:2002.03.25.
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